■悠久の大地、エジプトを走る
 
レンジャーのライバル!ベンツの新型ウニモグ。イタリアのチームが2台体制で参戦。近未来的なフォルムが斬新。
9月28日、僕らを乗せた日野レンジャーは、スフィンクスが鎮座し、その奥に3基の大ピラミッドがそびえるギザ台地にいた。いよいよラリーの開幕である。
スタート台は、スフィンクスの真正面に設けられていたのだ。冒険ラリーのスタートとして、これは最高の演出だ。
ピラミッドは、圧倒的な存在感を放ってそこに屹立していた。これはいったい何なのか。さまざまな説明が試みられているものの、明確な回答はない。しかし、ピラミッドの本当の凄さは、古今東西を問わず、ここに訪れたどんな人をも唸らせる絶対的な説得力にあると僕は思った。ピラミッドは、古代から現代にプレゼントされたイマジネーションのパズルなのだ。
ラリーはこのギザ台地をスタートし、西方砂漠のオアシスを経由しながらスーダンとの国境近くまで南下し、エジプト最南端の遺跡、アブシンベル神殿を折り返すルート。熱風吹きすさぶ灼熱の砂漠を越え、古代の人々が夢や情熱とともに進んだ道をトレースする。
午前11時35分、カミオン・クラス出陣の時が来た。
出場カミオンは3台。競技台数としては寂しいが、ライバルの2台は最新型のウニモグ。搭乗しているのは、まるで港町にいそうな、ガッチリした体格の荒くれ漁師風イタリア人である。パリダカにも出場予定だというこの2台のライバルは、かなり手強そうだ。
初日のSSスタート地点に移動した僕らの目の前には、エジプトの西方砂漠がはてしなく広がっていた。陽炎に揺れる地平線。熱風が砂煙を巻き上げる。SSのスタートを待ちながら、照仁選手はエンジンの調子を確かめるかのように何度もアクセルを開けた。そのたびに、レンジャーは巨像のような雄叫びをあげた。

■カミオンの衝撃
 
豪快な走りを見せる日野レンジャー。その振動と衝撃は想像を絶する過激さだった。
12時50分、SSがスタートした。巨大な蹄のようなタイヤが、大地の砂を力強く蹴り上げ、レンジャーは走り出した。
オアシスへと続く砂漠の道は、実に変化に富んでいる。さまざまな局面を適切な判断力で乗り切る技術が要求された。
砂漠を走りながら、ラリーはつくづくチームスポーツであると僕は感じていた。チームの出来が勝敗を決めるからだ。運転するのはドライバーだが、ルートを決めるのはナビ。ドライバーとナビの意識が一心同体となったときこそ、絶妙なコンビネーションが生まれる。コンビネーションを生む鍵は、お互いへの信頼だ。
だが僕と照仁選手は、お互いについてはほとんど知らないと言っていい。こんな即席チームが、この過酷な7日間を完走することができるのだろうか。僕は彼に自分の命を預けることができるのだろうか。はたして、僕の漠然とした不安は杞憂に終わった。
照仁選手は、独特なリズムで巨大なレンジャーを軽快に捌いてゆく。競技者としては初めてでも、これまでの豊富な経験が彼にはあるのだ。僕は、安心して彼に命を預けることができた。
それにしても凄いのは、カミオンが受ける振動と衝撃である。それは想像を絶する過激さだった。カミオンのコックピットは、タイヤの真上にある。タイヤが受けた衝撃は、分散されることなくダイレクトに選手の体を直撃するのだ。大地の起伏は、コックピットを上下左右へと激しく揺らし、僕の体は、ほぼ同時にあらゆる方向へ引っ張られる。まるで、馬に手足を引っ張られる中世の拷問のようだ。
グッと息を呑み、襲い掛かるGに耐える。瞬間的にとてつもない力が体に加わる。そのとき、これは修辞法的な表現ではなく、文字通り「心臓が止まるか」と思ったことが何度もあった。
カミオンという競技の凄さに改めてショックを受けつつ、夕刻のビバークに到着した

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