お詫び:写真を撮っている場合ではない日であったため画像はありません。

寒さで何度、目を覚ましたことだろう?特にドロの中に浸かっていたつま先は寒さで感覚が無くなっている。あれから何十時間も朝を待っている気がする・・・。

暗がりの中にうっすらと山の輪郭が浮かび上がってきた。時計の針は6:00を指している。まだ3時間もたっていないのか・・・。”早く脱出しなければ”という気持ちとはうらはらに、寒さで動く気もおこらない。放心状態でシートに座ったままボーっとしていると、なんとゲルが見えるではないか!しかもゲルの横にはトラックが!早速、隣のハグアーを叩き起こしゲルへ向かった。
遠くからは比較的大きく見えたトラックだったが、近くで見るととても小さい。日本で言う小型トラックのサイズである。とてもじゃないが、これじゃあ牽引不可能であったが、とりあえずゲルに入ってみることに。
ゲルに入るのはもちろん初めてである。ゲルの中はとても暖かい。お婆ちゃんが火を焚いていたからだ。だが、他の家族はまだ眠っていた。どこへ行ってもお婆ちゃんは早起きである。エライのである。そんなエライお婆ちゃんが白い暖かい飲み物をくれた。すごく脂の浮いた牛乳たっぷりの紅茶である。こうゆう好意は大切にしなければいけない。が、自分は牛乳を飲むとすぐにお腹の調子が悪くなるので、ありがたく一口だけいただき(まったく味のしない脂っぽい飲み物であった。)ハグアーにあげてしまった。お婆ちゃんごめんなさい。

旦那と交渉をしてみると近くに大きな農耕用トラクターがあると言うので、バイクで博っちゃんと一緒に行ってもらい、その間にとにかく出やすいように掘れる所を掘ることにした。それにしても明るくなって見てみると完璧に埋まっている。とりあえず掘るしかないでしょ。
30分ほどで博っちゃんが戻ってきた。どうやらそのトラクターが来るまで2時間はかかるらしい。やはり大自然の中で生きている人々は時間の流れも雄大である。そんなことを感心している場合ではないのである。このままでは我々のラリーレイド・モンゴルはここで終わってしまうではないか。
とにかく掘った。知らないうちに20人ほどの野次馬に囲まれていた。ありがたいことに一緒に掘ってくれる人もいた。丸太の上に脱出板を置き、その上にジャッキをのせてタイヤを上げてみた。1回で5mmほど上がった。何回もかけなおし、少しずつ上げた。その都度、タイヤの下に石を詰めていった。そのうちにトラクターも登場し引っ張ってもらうがビクともしなかった。いつの間にか太陽が真上にあった。無駄に時間だけが過ぎていった。

落ち着いて考えてみることにした。トラクターで引っ張ってダメだということは、今までの方法では出ないということだ。モンゴル人もトラックの下の固い地面を全部掘らなければダメだと言っている。だから掘ろうと言って、すでにみんなで堀り始めている。おいおい君たち、それ全部掘るのに2、3日はかかるでしょ・・・。
要は右側のタイヤがスリップしてるから脱出できないわけだ。スリップさえしなければ・・・。
「博っちゃん、右側のタイヤを上げて下に石を詰めればいいわけでしょ。なんかいい方法ないかなあ?」そう、上げればいいんだ!出来る出来ないに関係なく上げてみよう。ということで、考えついたのがこの方法。
牽引ロープをタイヤに掛けて、あおりの上から逆方向にトラクターで引っ張ってみることにした。右側のタイヤを上げるのにロープを荷台の上に通し、トラクターで真左に引っ張るのである。1回目、ジワジワと引っ張ってもらうがタイヤが上がるまではいかなかった。でも、もう少しで上がりそうであったので2回目は勢いをつけてやってもらった。

ドッシンという音とともに右側のタイヤが一瞬上がった。相撲のドスコイ状態である。こうなればこっちのものである。3回目、地元のモンゴル人にも石を持ってもらい、タイヤが上がる一瞬の間にみんなで石を投げ込んだ。4回目、5回目、6回目とやっているうちにかなりの石が投げ込まれた。これなら大丈夫である。左側は比較的固い地盤であったが、念のため同じように石を投げ込んだ。前輪はともかく、後輪のトラクションはこれで万全である。トラクターに牽引の準備をしてもらい、運転席に乗り込んだ。トラクターと息をあわせ、祈るような気持ちでクラッチをゆっくりとつないだ・・・。
♪チャンチャラッチャーン、チャンチャラーン♪(いちおうインディージョーンズのテーマ)やったぜ!脱出成功である。みんなで握手を交わし、この地を後にしたのが13:00であった。

そこから70kmくらい走り、バイヤホンゴルという町の飛行場で2人のエントラントとお別れ。エタップ2の214km地点の町にリタイヤしたエントラントがいるというので、燃料を満タンにし、オンコースをショートカットしてその地点を目指すことになった。時刻は19:40、残り約180km。夜にオンコースを外れるのは、かなり不安である。
1時間ちょっと走ったところで、やっぱり迷った。ちょうど部落があったので、そこで聞いてみることにした。止まってみるともの凄い軽油の臭いがするのであわてて降りてみると、車から軽油が滝のように流れているではないか!よく見てみると、タンクの下側のホースが外れている。軽油まみれになりながらつけ治そうとするが、ネジがいかれてどうしようもない。どうやら振動でタンクを締め付けていたベルトが緩み、タンクが暴れてネジがいかれてしまったらしい。満タンにしたばっかりだったが、どうしようもないので諦めた。これで300リットルのタンクが使用不能になってしまったので、200リッターのドラム缶を購入し対応することになった。いろんなことがあるもんだ。

その後の深夜のドライブは散々なものであった。道がわからない、道が悪い、おそろしく眠い・・・。迷いながらも走り続け、町の少し手前でビバーク。午前3:00。。。

TOTAL  262km
走行時間 14時間