目覚めると温かい食事が用意されているというのは、なんて幸せなことであろうと感じながら、朝食を頬張っていると、ミッチャン(食事係のオフィシャルとして参加しているフランス人・マリオ似)が何かを叫びなら全速力でやってきた。その体からは想像がつかない走りっぷりだ。「ドクトル!ドクトル!」と叫んで、何かを伝えようとしているのだが、その後のフランス語が理解できない。でも、とにかく医者が必要なようだ。スタート前の和やかなビバークに緊張が走った。しばらくすると、1km先でバイクの単独事故発生!の報がはいる。急遽、カミオンバレーに現場へ急行の命が下り、山田会長と共に現場へ向かう。
事故を起こしたのは、前日まで総合2位につけていた#22細野選手。ハイスピードでギャップに足を掬われ転倒。グチャグチャになったバイクが転倒時の衝撃を物語る。幸い、細野選手は頭を強く打ち脳震とうぎみだが、意識はハッキリしている。バイクと選手を回収後、ビバーク地に戻り、選手をヘリに乗せ換える。ラリーの魔物はどこに潜んでいるかわからない。
8:45、後かたづけの終わった本部隊と共にビバーク地を後にする。本部隊はETAP7のビバーク地を目指し東へ、我々はオンコース通り南東へ向かった。今日は距離も長く(687km)、アルタイ山脈越えにゴビ砂漠と厳しいステージだ。しばらくすると、ルートはどんどんと山間に入っていく。ジワジワと山道を登っていくと、バイクが1台止まっている。しかし、辺りに人影は見当たらない。車を止めて、バイクを調べてみると「選手はヘリで回収済、バイクの回収をお願いします」と置き手紙があったので、バイクを回収後、再び走行を開始する。それにしても、山間を抜けていく道はアベレージが上がらず、20km/hそこそこ。このままだと、次のビバークまで単純計算で30時間以上かかってしまう!?しかし、道幅が狭く、1m大の岩がゴロゴロしている山道ではペースを上げようにも上げられない。仕舞いには切り返しをしないと曲がれない所まで現れたので、先を急がずマイペース走行で進むことにした。
やっとの思いで山間を抜けると、だだっ広い草原の尾根に出た。すると、前方の尾根の陰からバイクが1台こちらに向かって来た。我々の進行方向からやってくるということは、このバイク、オンコースを逆走中である。そしてもっと驚いたことに、同じ所からジムニーが鯉のぼりをなびかせて、もの凄いスピードでやってきた!どうやらルートブック上のピストが雨で消えてしまい、何人ものエントラントが、この尾根でルートを見失っているらしい。でもこの方々、運良くカミオンバレーに出くわしたものだから、大ラッキー!だってカミオンバレーはオンコースしか走らないんだから。我々と出くわすや、この2台、もの凄い勢いで去っていった。。。
と思っていましたが、しばらく行った所に止まっていましたジムニー君。さすがに追い越すわけにはいかないので、車を止めて近づいてみると、どうやらパンクの修理中。すぐ横にゲルがあったので、ナビの近藤聡子嬢に「ゲルでお茶でもいかがですか?」と尋ねてみると、ムッと一瞥。それもそのはず、この方々、120kmを進むのに5時間ほどかかっていらっしゃるのですから。そんな隙に、博っちゃんはハグアーと共にモンゴル茶をいただきにゲルに直行。置かれている立場はこうも違う。
修理が終わるとジムニー君はまたしても全速力。我々も少し間隔をおいて再スタート。もう会わないだろうと話していると、またまたやってきましたジムニー君。それにしてもこの方々、このままではさすがにビバークには着けないでしょう。(しかし、23時間走り続けて次の日のスタートには間に合ったそうな・・・)そんなジムニー君のドタバタ劇に、車内はかなり和やかムード。しかしラリーはそんなに甘くはない。またしてもコースがどんどん狭くなり、山間の枯れ川にはいると大パニック。回廊のような枯れ川の左右は、3m近い切り立った壁。その壁が先へ行くほど狭まってきて、挙げ句の果てには車幅そのもの。そんな所にお約束のように1m大の岩がゴロリと転がっている。誰かが嫌がらせに置いたとしか考えられない!(そんなことはない。)もう避けられない、戻れないということで、ヨッコイショと岩を乗り越える。ウーン、トラックならでは。それを抜け、次の試練は30cmほどの石がゴロゴロと点在するだだっ広い河原。ガツガツと走り抜けるしかないのだが、この振動が堪らない。ボディーブローのように体に効いてくるこの振動は、乗った人しかわからない。やっとの思いでアルタイの山塊を抜けるが、残り約500km。。。。。。
山を後にすると、見渡す限りの大草原。ギャップに注意しながら全開での走行が続き、その後、一本道のピスト走行となった。順調に進んでいたが、18:00右フロントタイヤをパンクしてしまう。痛恨。トラックのタイヤ交換は著しく体力を消耗する。
350km地点のRCPでカミオンバレー隊の到着を待っていてくれるというので急いで向かうが、日が暮れるとカミオンバレーといえども、ルートを見失ってしまう。23:00暗闇に赤く点滅するフラッシュライトを発見し、RCP隊と合流。リタイヤしたバイクを1台回収し、0:20再スタート。RCP隊のテールランプを頼りに走行するが、いかんせんランクルとトラックではスピードが違う。しばらくすると、まったく見えなくなってしまった。それからは、進んだような進んでいないような。時刻は3:30、スタートしてから422km地点で力尽きたのでありました。

TOTAL  422km
走行時間 19時間