今日は、ビバークから砂漠を超えて再び同じビバークに戻ってくるコース。ループ状のコースのためカミオンバレーはビバーク地で待機している予定だったが、急遽、コース上にいる取材スタッフを迎えにいくことになった。迎えに行って帰って来るだけの往復約200km。すぐに帰って来る予定なので、通訳のハグワーと走行中の衝撃で柱が折れてしまい固定することができなくなったエアジャッキなどの荷物をビバークに残し、身軽になったカミオンでドライバーと2人だけで出発をした(10:30)。

取材スタッフを迎えに行く地点までのナビゲーションは比較的簡単で、途中今まで十分に触ることのできなかったGPSの操作方法などを再確認しながら進んでいった。
迎えに行くスタッフが見える河の対岸に到着、6輪駆動車のカミオンはなんのこともなくそのまま河を渡る。河を渡り終わり出口にある少し急な土手を登ろうとしたところで、前輪を土手に登らせ後輪を河の中に残した状態で止まる。
こんな不自然な状態でどうして止まるのだろうかとふとドライバーの方をみると、「動かない」の一言。どうやら、スタックしたらしい。再び、来年の目標物になるのかと不安にかられる(106km地点、12:40)。どんなところでもグイグイと進んでいく6輪駆動車のカミオンでも欠点があったのである。今回のように土手に乗上げた状態では、後輪の前側のタイヤが中に浮いて空
転をするだけで、地面についている後輪の後側のタイヤにはトラクションがかからなくなってしまうのである。さらに悪いことに、実は昨日6輪駆動とデフロックの切り替えスイッチが壊れてしまい、ずっと後輪駆動だけで走ってきたのだった。
前輪は動かない、後輪は後側は動かない、前側タイヤが空転するのみ。そうなれば、前側のタイヤを地面に着けるしかない。まず後側タイヤのエアを抜いてみる。これで前側のタイヤが軽く地面についたが、車を動かすにはまだ力不足。さらに悪いことに、前側タイヤが地面についた瞬間、後側タイヤも回ったが余りにも低いエア圧のためチューブのバルブを壊してしまい、タイヤ2本が使い物にならなくなってしまった。
もうすこしで前側タイヤが地面に着きそうだったので、足場の悪い河の中で雨が降るなか、使い物にならなくなった後側タイヤを見物に来ていた現地のモンゴル人達と外すことになった。そして、タイヤの下に脱出板を敷き、前輪の抵抗を減らすため土手の砂を掘り、昨日壊れた6輪駆動とデフロックのスイッチをバッテリーから直接繋ぐ。そして、エンジン始動。
祈るような気持ちで見ていると、タイヤがぐっと地面に食いつき、バックでもと来た対岸へとゆっくりと動き始めた。やっと脱出成功(18:50)。

対岸に着き、とりあえず後輪の後側に1本だけスペアタイヤをつけ、片方はなにもつけずに再出発。しかし、少し進んだ砂の多い地面で再びスタックをしてしまう(19:20)。
再びタイヤの下の砂を掘り脱出板をしく。いつのまにか、現地の人たちがたくさん集まってきて、タイヤが地面に食いつくようにたくさんの石を持って来てくれた。
どうにかこのスタックから脱出し、再び出発しようとフト荷台を見ると、いつの間にか何だか知らない荷物をはじめ、おじさん、おばさん、子供など十数人が乗っている。そして、「あそこまで」と小さく見えるゲルを指差している。まあ、いろいろと手伝ってもらったからと思い、そのまま乗り合いバス状態でカミオンは進み、彼等をそのゲル近くまで乗せていく。
後輪の後側タイヤの片方はタイヤがついているが、もう片方にはついていない、もちろんスピードは出せない。しばらく進み、地面が固く締ったところで、今までなにもつけていなかった後輪の片方にタイヤをつけることにする。このまま走ってブレーキドラムなどを壊すよりは、ホイールをつけてそれを壊してしまう方がまだよいと考えたからだ。つけようとしているタイヤはさっき河の中で使用不能にしてしまったタイヤ。バルブが壊れてしまっている意外は全く問題はないので、そのバルブをアルミのパテで応急処置をして、タイヤに空気が入りカミオンが普通に走れることに一途の望みをたくす。
パテが固まるまでの約1時間、荷台で日本から持ってきたインスタントラーメンを食べる。出国前にコンビニでこのラーメンを買ったのだが、こんな状況で食べることになるなんて夢にも思っていなかった。同時に、日本にいればこんなバルブの修理だっていつも使っているガレージのあそこにある道具を使えば簡単に修理できるのに、といった気持ちが込み上げてくる。
パテが固まり、タイヤに空気を入れる。タイヤをつけて、ビバークに向けて走行再開(23:10)。しかし、すぐに修理をしたバルブの部分が壊れてしまったらしく、タイヤからエアが抜けてしまうがそのままの状態で走行を続ける。とにかく100km先のビバークに着かなければ、タイヤの交換さえもできない。また、しばらく走っていくとタイヤがぼろぼろになって飛び散ってしまい、ホイールだけで走行することになってしまった。ガラガラガラ・・・・。漆黒の闇の中、カミオンはホイールを地面に引きずりながら進んでいった。
どのくらい走っただろうか、ビバークがあると思われる地点まで来た時、右手方向の山間に見慣れた小さく光る赤色灯を発見。道のない草原を一直線にその明かりに向かう。そして、ビバーク着(3:20)。
ビバークに着くと、スタッフが出迎えてくれ、温かいお茶漬けが出てきた。なんだかホッとする。毎日思うことだが、この「ホッ」とするために次のビバークを目指している感じがする。一息ついて、タイヤを交換しようとライトを持ってカミオンに近付いてみると、タイヤが飛び散った車輪のホイールは形を留めることなくグニャグニャに変形をしていて、その回りにはタイヤのワイヤーが幾重にも巻き付いていた。こんな状況でよく走ってきたのかと感心さえしてしまった。タイヤ交換をしていると、空が明るくなってきた。
